26th国際福祉機器展

1999.10.13〜15/東京ビッグサイト

1999.10.17作成

 国際福祉機器展は、毎年1回行われる、おそらく国内で最大規模の福祉機器の展示会です。

 僕が最初に福祉機器展に行ったのは、たぶん1990年だったと思います。それ以後、ほとんど毎年見に行っていますが、年々規模が大きくなり、見にくる客層もより広くなり、車椅子バスケットの試合やコンサートが行われるなど、単なる機器の展示にとどまらない総合イベントへと発展してきました。
 展示される福祉機器のジャンルは以前とそう変わらないように思いますが、健常者との共用を意識した製品が増えたこと、製品のデザイン、美観が向上したこと、パソコンや電子機器が増えたことなどの変化が見られます。

 僕は福祉機器のデザインにずっと注目しています。初めの頃よりは“ちゃんとデザインされた”ものも増えてきましたが、全体としてはまだまだだと思います。「ユニバーサルデザイン」という言葉が生まれ、主にユーザインタフェースの観点から誰でも使えるものを、という動きが見られますが、ぜひ外観デザインの観点からも質を向上させて欲しいと思います。

 …という想いとは特に関連がないかもしれないレポートです(^^;)。


 最終日10/15(金)に見に行きました。雨混じりのどんよりとした天候でしたが、非常に人が多く混雑していました。気のせいか、展示を見に来ているお客さんは、ドブネズミ色の背広の人が多かった気がします。もしこの人たちが福祉関係の人だとしたら、福祉機器デザインの向上は当分望めないなあという感じ。


●筋電義手●

 筋電義手というのは、筋肉が収縮するときに発生する電位を利用してロボットの手のような義手を電動で動かすものです。たとえば腕を切断して失っても、残された部分の筋肉を使って本人の意のままに動かすことができるという発想ですが、課題も少なくありません。
  設計上の課題としては、重さ、大きさ、リアリティ、精密な動作のコントロール、耐久性、バッテリーの寿命、コストなどがあります。ユーザインタフェースの観点から見ると筋電位をコントロールするトレーニングが必要で、そう簡単には使いこなせるものではないようです。このトレーニングを容易にするため、ニューラルネットなどのアルゴリズムを用いて義手自体に学習能力を持たせるといった研究が行われています。
  これまであまり出展されていなかった気がするのですが、今回は少なくとも2つ展示されていました。


 こちらは見に来た人に電極を着けてもらって、義手を動かすデモをやっていました。このとき試していた人は、やはりなかなか思うように義手を動かすことができないようでした。


 これがもう一つの展示。義手というよりロボットの手という感じでなかなかかっこいい。この義手を使いこなすには、予め筋肉をコントロールするトレーニングが必要だそうです。そのトレーニングシステムも展示していましたが、残念ながら機械の調子が悪くデモは行っていませんでした。
  この義手はかなり繊細な制御を行うらしく、指を動かす速度を最初は速く、ものに触れたらゆっくり動かすようになっているそうです。その場ではビンとボール紙の箱(強く握るとつぶれる)をしっかりと、でもつぶさずに握っていました。カタログには卵やティッシュペーパーをつかんでいる写真が載っています。


●乗り物●

 足を使わずに車を運転する装置のシミュレータがありました。アクセル、ブレーキペダルを押す代わりに1本のレバーを前後に倒します。僕もこのシミュレータを使ってみたのですが、うまくいきませんでした。その理由は、僕の感覚ではレバーを引く=ブレーキ、レバーを押す=アクセルなのですが、実際の仕様は逆になっているからです。引く=アクセル、押す=ブレーキというのは(当然)規格で決まっているそうです。
 操作部を設計する際には、つまみやレバーなどユーザが直接操作する部分を動かす方向と、その結果実際に制御するものの変化の関係は非常に重要になります。たとえばラジオのボリューム、エアコンの温度などをもしつまみを回して調節する場合、右に回すと音や温度のレベルが大きくなるというのが自然です。
  押す=ブレーキとする考え方について、緊急時には思わず体が前にのめるからというような話も聞いたことがありますが、いやあ、僕はビビッた時には体を引くと思うけどなあ。


 電動カートとその操作部分。僕は以前から電動カートや電動車椅子について疑問を持っています。この手の車はアクセルハンドルがオン・オフになっているので、ハンドルを握るといきなりガクンと動き出します。加減が分からないので恐いし乗り心地もよくありません。スピードの切り替えは出来るのですが、予めスピードレベルを決めておいてからアクセルを握るもののようです。
  でも、車はアクセルペダルの踏み込み量に合わせて滑らかに加速します。操作部の変化量と実際の制御の変化量の比率のことをCD比といいます。たとえば、マウスを1cm動かすと画面上のカーソルは何cm動くか、車のアクセルを5°踏み込むとどれだけ加速するかということで、適正なCD比は製品は使用状況によって異なります。電動カーとの場合、アクセルハンドルを1cm動かそうと5cm動かそうと、カーとの速度は一定なので、正確に言うとCD比では表現できないことになります。
 人間自身が動くとき、または人間が何かを動かすとき、はじめはゆっくり、そして徐々に速く動かす方が自然です。 カートの乗り心地も絶対によくなると思います。ぜひ、適正なCD比を持った、徐々に加速する電気カートを作ってほしいものです。なぜ、そういう電気カートがないのでしょう。サスペンションにはこだわっているようなのに、なぜ?


 で、ついに2人乗りが登場してしまいました(^^;)。


 乗り物とは言いがたいですが、ルームランナー、トレッドミルという装置です。リハビリ用なので、左右の足の速度を別々に調整できるという特徴があります。コンパネもとてもストレートですが、「歩行スイッチ」に対して、表示が3つも付いているのはちょっとやり過ぎかも。一般的にこういったつまみは、右に回すほどレベルが高くなるというルールがあります。それに、右回しが「速い」なら左回しは「遅い」に決まっています。わざわざ表示しなくても…。


●音声合成●

 色々な音声読み上げツールが出展されていました。特に面白かったのは、読み取り専用のコードが印刷されていてそれをスキャンすると音にしてくれるという方式のものです。これらのコードは、普通のパソコン用プリンタで印刷できるところがミソです。配布が非常に簡単で、晴眼者用の書類と同じメディア上で扱えるからです。


 こちらはテキスト情報をこのようなコードの中に埋め込みます。これを専用のスキャナで読み込むと音声化してくれます。


 一方こちらは、テキストではなくサウンドデータそのものをコード化します。これをペン型のスキャナでなぞります。


 そしてこれが、普通の印刷された文字を読み取って音声化してくれる装置です。一目見て分かる通り、既製品のフラットベッドスキャナと、テキスト読み上げに特化したコンピュータなんでしょうが、デザインレベルの差が歴然です。切なくなります。


 これはWEBの内容を読み上げてくれるソフトです。基本的には、テンキーとenterキーを使って音声を聞きながらリンクをたどっていくものです。笑ったのは、リンクと普通の文章の区別です。なんと、女性の声だとリンク、男性の声だと普通の文章なんだそうです(^^)。初めてこのソフトを触る僕には、“聴WEB”というのは非常に難しいインタフェースでした。


●楽器●

 汚い写真で分かりにくいでしょうが、白鍵4つにまたがるように「ソ」という表示があります。これは手をグーにして弾くキーボードなのです。「ソ」表示の辺りを適当にグーでたたけばソの音が出ます。仕掛けはけっこう簡単で、MIDIキーボードとMIDI音源の間に音程情報だけを変換するフィルターをかませるだけです。だからMIDIキーボードなら機種は問いません。うまい。


 リハビリのための楽器です。紙に書かれた折れ線グラフは、歌詞が「ちい-さ-い-あ-き」のように書かれています。この文字をたどるように指で押さえていくとメロディが奏でられるというものです。実際にはこのプレートの下の方を押せばド、その少し上を押せばレという具合に、上下方向の位置によって音程が決まりますから、押す場所が左右方向にずれても関係ありません。びっくりしたのは、4音までの和音が出せること。和音は弾くの難しいでしょう。


●ゲーム●

 ちょっと分かりにくいのですが、パソコン画面上で実際の人物のビデオ映像とゲームのCG映像を合成してます。画面上を漂うもの(なぜかフルーツ)を押し上げるように手を動かすと、実際にそれが上に跳ね上がります。ゲームのプレーヤーが画面の中に入り込んだような感じです。


●電話●

 視覚障害者用の電話で、とにかくボタンがでかい!最近の電子機器は小さなボタンがたくさん並ぶ傾向にありますが、たまにこういうボタンを見ると、表示が大きいことはやはり晴眼者にとってもわかりやすいということを改めて思い知らせれます。


●ボールペン●

 持ちやすいボールペン。なかなかかわいい。で、しっかりツートンカラーのスケルトンも置いてありました。この写真はカタログからのスキャンですが、本物はもっともっときれいでかっこいいんですよ。なんでもっといい写真使わないんだろう。


●トイレ●

 洋式と和式を合わせたようなトイレです。カタログには「札幌式トイレ」と書かれているんですが、何かどう札幌式なんでしょう?


●高齢者体験●

 白内障などで角膜が黄色くなった時のものの見え方を再現するフィルター。会場には、関節のプロテクターや手袋なども含めた、高齢者疑似体験コーナーもありましたが、なかなか人気のようで順番待ちが必要でした。これは、そのコーナーとはまったく関係のないブースに置いてあったものです。


●その他1●

 福祉機器としては、デザイン的に1歩抜きんでていると僕が思ったものです。


 2kHz以上の音を強調して、音を聞き取りやすくするスピーカー。一般的なAV機器と同じノリでデザインされています。


 福祉・介護データ入力機。付属のボールペンで用紙に記入したのと同じ情報を、あとでパソコンに取り込めます。その正体はバッテリー稼働のメモリ付きペンタブレットといったところでしょうか。なかなかきれいな形で、細かい部分の仕上げもきちんとしてます。


 言葉が不自由な人のためのコミュニケーターだと思います。


●その他2●

 いえ、本当にどうでもいいことなんですけど、つい目についてしまって。


 車椅子が載るミゼットII。


 介護データ管理用携帯情報端末。どう考えてもNewtonに似ている!


 福祉のお仕事で活躍中のiMacたち。


 なぜかe-oneまで!


以上


1999.10.17作成